前回のクラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準で、クラウドAIとローカルLLMを使い分ける物差しをお伝えしました。「データの機密度」と「業務の型」という2つの軸です。読んで納得しても、次に浮かぶ疑問はだいたい同じ。「じゃあ、うちの議事録の要約は?契約書のチェックは?」という当てはめの段階です。
この記事では、判断軸の説明を繰り返しません。議事録・見積書・契約書チェックなど7つの実務を、いきなり「クラウドでいい」と「ローカルにすべき」に仕分けていきます。そのうえで、3つ目の分類である「そもそもAIに任せるべきでない」の見極め方も正直に扱うつもりです。
おさらい:物差しは「データの機密度」と「業務の型」
物差しは2つだけです。ひとつは「データの機密度」——漏れたときの実害の大きさ。もうひとつは「業務の型」——AIの間違いをどれだけ人間がすぐ見抜けるか、という視点です。詳しい考え方はクラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準で解説していますので、本記事では当てはめ作業に専念します。
ローカルLLMの仕組みそのものが気になる方は、ローカルLLM入門も参考にしてください。
【一覧】7つの実務を振り分け表でチェック
まずは全体を眺めてみてください。7つの実務を「クラウドでいい」「ローカルにすべき」の2つに仕分けました。最後の1行だけは番外で、「AIに任せるべきでない」の代表例を足しています。
| 業務 | 分類 | 理由 |
|---|---|---|
| 議事録の要約(通常の定例会議) | クラウドでいい(法人プラン推奨) | 定型加工でAIの誤りをすぐ見抜ける。社外秘レベルなら法人向けプランで学習利用の既定オフを活かせる |
| 見積書・提案書の下書き | クラウドでいい | 下書き段階の言い換え・体裁整形が中心。固有の金額・取引先名は伏せ字にしてから貼ると安心 |
| 顧客メールの返信文 | クラウドでいい | 定型的な文面作成。顧客名や具体的な金額は一般化してから使うひと手間で安心感が増す |
| 社内規程・マニュアルのQ&A | クラウドでいい(内容次第で法人プラン推奨) | 一般的な調べ物が中心。規程全文を貼るなら社外秘扱いとして法人プランへ |
| Web記事の調べ物・リサーチ | クラウドでいい | 最新性・網羅性が価値になる作業で、クラウドの強みがそのまま出る |
| 人事評価・給与に関する相談(下書き・言葉選び) | ローカルにすべき | 個人情報と実害の大きさが重なる。個人名や評価内容を伏せ字にできる場合はクラウドの逃げ道もある |
| 取引先との契約書チェック(条文の要約・論点整理) | ローカルにすべき | 契約書原本は機密性が高く、取引条件の把握という判断要素も伴う |
| (番外)人事評価・給与・契約の「最終決定」そのもの(昇給額の決定、解雇の可否、契約締結の可否など) | そもそもAIに任せるべきでない | 後戻りできない決定・個人の処遇への直結・法的効力の確定のいずれかに該当。AIの出力は参考どまりとし、最終判断は必ず人が行う |
表の中の「クラウドでいい」にも、実は温度差があります。同じ「クラウドAI」でも、個人向けと法人向けでデータの扱いが違うからです。以下は2026年9月12日に各社の公式ページで確認した内容。
ChatGPTは個人向けの設定で学習利用をオフにできる、とOpenAIが説明しています。裏を返せば、オフにしない限り学習に使われうるということ。Geminiの個人向けアプリについては、入力の一部を人間のレビュアーが確認することがあるとGoogle自身が明記しています。
法人向けプランは、どちらも既定で学習に使われません。ちなみにClaudeは個人向けでも既定でオフ、と提供元のAnthropicが説明しています。「クラウドAIはどれも同じ」ではないんですよね。
社外秘レベルの情報が混じる業務は、個人向けの安いプランを使い回さず法人向けプランへ切り替えてください。社内ルールの作り方は生成AIの社内ルールの作り方でひな形つきで解説しています。
定型加工は基本クラウドでいい——議事録・見積書・顧客メール
議事録の要約は、通常の定例会議ならクラウドでいい代表格です。ただし経営会議や人事関連の議事録は機密度が別格なので、対象外と考えてください。
見積書・提案書の下書きも同様です。固有の金額や取引先名は伏せ字にしてから貼ると、なお安心。伏せ字のやり方は生成AIの社内ルールの作り方で紹介した方法がそのまま使えます。
顧客メールの返信文もクラウドで十分。営業場面での活用の広げ方は営業のChatGPT活用術5選で具体的に扱っています。
調べ物も基本クラウドの独壇場——社内規程Q&A・Web記事のリサーチ
社内規程やマニュアルのQ&Aも、クラウドでいい部類です。ただし規程の全文をまるごと貼り付けるなら社外秘の扱いになるので、法人向けプランのほうが安心です。
Web記事の調べ物・リサーチについては、正直に書きましょう。ここはローカルLLMが不利な領域です。最新性・網羅性が必要な作業で、クラウドの強みはそのまま出るもの。ローカル推しの記事にしたいわけではないので、ここは素直に認めておきたいところです。
判断が絡む2つは要注意——人事評価・給与の相談/契約書チェック
人事評価や給与に関する相談は、言葉選びや下書きの段階からローカルにすべき。個人情報と実害の大きさが重なる業務だからです。ただし昇給額や解雇の可否といった「最終決定そのもの」は、AIに任せる話ではありません。
なお前回の記事では、この領域を唯一の「グレーゾーン」として扱いました。一般的な言葉選びの相談なら、個人名や評価内容を伏せ字にしてクラウドで下書きを作る逃げ道もあります。具体的な氏名・評価・給与額がどうしても外せない相談だけ、ローカルに寄せると考えてください。伏せ字のやり方は生成AIの社内ルールの作り方のとおりです。
取引先との契約書チェックも似た構造です。条文の要約や論点整理はローカルで行うべき。契約を締結するかどうかの最終判断は、人が行うべき領域です。
ローカルにしたからといって、自動的に安全になるわけではありません。アクセス管理やログの記録があって、初めて安全と呼べる状態です。この点はローカルLLMは本当に安全?仕組みと注意点を解説で詳しく扱いました。
「そもそもAIに任せるべきでない」はどう見極める?

人事評価と契約書チェック、どちらも「最終決定はAIに任せない」と書きました。ここで共通する物差しを、一般的なリスク管理の考え方として整理しておきます。断定的な法律解釈をするつもりはありません。あくまで実務上の目安です。
目安は3つあります。
- 後戻りできない決定かどうか——解雇、契約の締結・解除、取引の打ち切りなど
- 個人の処遇や人生に直結するかどうか——評価、給与、採用の合否など
- 法的な効力を持つ書面の最終確定に関わるかどうか——契約書の締結、社内規程の制定など
このうちどれか1つでも当てはまるなら、AIの出力は「たたき台」までにとどめてください。最終判断は必ず人が行う。これだけは譲れない一線だと私は考えています。
現場でよくあるのは、AIが作ったもっともらしい文章に引きずられて、判断そのものをAIに預けてしまうケースです。AIは「決める」ためのツールではありません。あくまで「決めるための材料をそろえる」ためのツールだと捉えておくと、線引きに迷いにくくなります。
振り分け表を自社仕様に育てる3つのコツ
この記事の7つの業務に、自社の実務がぴったり当てはまるとは限りません。表にない業務は、次の3つのコツで自分で仕分けてみてください。
- この記事にない業務は、クラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準の2軸マトリクスに自分で当てはめてみる
- 一つの業務が複数の型にまたがるとき(例:見積書の下書きだが金額の最終決定を含む、など)は、機密度・判断要素が重いほうに合わせるとうまくいきます
- クラウドAIのプラン内容は変わるものです。個人向け・法人向けの違いが変わったら、表を作り直す前提でいてください
まとめ:2つに仕分け、3つ目を見極めれば迷いは減る
要点を整理します。
- 7つの実務のほとんどはクラウドでいい
- 機密度と判断の重さが増す業務はローカルにすべき
- 後戻りできない決定・個人の処遇・法的な最終確定は、AIに任せない
今日、自社で扱っている業務を1つだけ書き出して、この3分類のどれに当てはまるか考えてみてください。クラウドとローカルを併用する前提での社内ルールの作り方は、次回の記事で詳しく扱います。
振り分け表を作ってみて「ローカルにすべき」が複数見つかった方、「任せない」の線引きに迷う方。機材選定からルール設計まで一緒に考えるのが、私の仕事です。「全部ローカルにしましょう」と煽るつもりはありません。ローカルが要る業務を一緒に見極めましょう、というだけの話です。
私はIT業務歴約30年、インフラ構築からAI活用まで一人でこなしてきた人間。神奈川・東京・山梨を中心に対応しています。気になる方は、お問い合わせページからお気軽にどうぞ。
参考資料
- OpenAI「Data Controls FAQ」(2026年9月12日確認)
- OpenAI「エンタープライズプライバシー」(2026年1月8日更新・2026年9月12日確認)
- Google「Geminiアプリのプライバシー ハブ」(2026年8月10日更新・2026年9月12日確認)
- Google「Google Workspaceの生成AIに関するプライバシー ハブ」(2026年8月14日更新・2026年9月12日確認)
- Anthropic Privacy Center「Is my data used for model training?(個人向け)」(2026年3月17日更新・2026年9月12日確認)



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