前々回のクラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準で機密度と業務の型という物差しを、前回のクラウドでいい仕事、ローカルにすべき仕事、任せない仕事で7つの実務への当てはめ方をお伝えしました。ここまで読んで自社の振り分け表を作った方から、次によく聞くのが「実際に2つを使い始めたら、また別の迷いが出てきた」という声です。
「この案件、今日はどっちに入れるんだっけ」。現場でこの迷いが毎回起きるなら、それはルールに穴が空いている証拠です。既存の入力NGリストの話はもう繰り返しません。この記事で扱うのは、判断者・振り分け早見表・ログという3つだけ。これを決めておくと、その場で迷う場面がぐっと減ります。
なぜ「併用ルール」が別に要るのか——単体ルールでは足りない理由
ここで言うクラウドAIは、ChatGPTやGeminiのような外部のサービス。ローカルLLMは、自社のPCやサーバーの中だけで動かすAIのこと。生成AIの社内ルールの作り方で紹介したA4一枚5項目(使ってよいツール・入力NGリスト・出力の扱い・禁止する用途・相談先)は、正直に言うと、クラウドAIを1種類使う前提で作られたものでした。ローカルLLMを併用し始めた途端、この5項目にはない穴が2つ出てきます。
ひとつは、「この情報はどちらに入れるか」は決めても、「今この瞬間、どちらのツールを使うか」を誰が決めるのかが抜けていること。もうひとつは、NGリストは「入れてはいけないもの」しか書いておらず、「入れていいものをどちらに入れるべきか」までは書いていないことです。
本記事が扱うのは、この2つの穴を埋める3つの追加ルールだけ。3つ目のログは、決めた2つを一度きりで終わらせず、実態に合わせて直していくための材料になります。既存の5項目はそのまま生かします。
ルール①「振り分けの最終判断者」を1人決める
クラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準では「誰が最終判断するかを1人決めておく」と一文だけ書きました。ここではその先、決め方と回し方まで踏み込みます。
誰を選ぶか。情報システムの専門知識より、自社のどの情報が機密で、どの業務が重いかを分かっている人のほうが向いています。多くの中小企業では、経営者本人か、総務・経理の責任者が現実的でしょう。
判断に迷ったときの上げ方も、あらかじめ決めておきます。現場は自己判断で押し切らず、まず判断者に一声かける。「当日中に返信する」など、返信の目安時間まで添えておくと運用が回りやすくなります。ここを曖昧にしたままだと、忙しさに流されてなし崩しになる——これは前々回の記事で触れた懸念そのものです。
判断者が不在のときの代役も、1人決めておきましょう。判断者・代理のどちらも捕まらない場合は、「判断が出るまで、その作業はいったん止める」というルールを先に決めておくのがポイントです。止める基準を後回しにすると、結局は現場の判断任せに戻ってしまいます。
よくある場面を挙げましょう。取引先から急ぎで提案書を頼まれ、少し機密度の高い数字を入れるかどうか担当者が迷う、という場面です。ここで自己判断せず、判断者に一言確認してから作業を進める。この一手間があるかどうかで、ルールが実際に機能するかどうかが決まります。

ルール②「入力NGリスト」ではなく「振り分け早見表」を1枚にする
併用ルールというと「入れてはいけない情報のリストを1枚にまとめよう」と考えたくなります。ただ、それだと生成AIの社内ルールの作り方のNGリストとほぼ同じものになってしまうんですよね。
代わりに作るのは、「NGかどうか」ではなく「どちらに入れるか」を一目で判断できる早見表です。クラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準の2軸マトリクスと、クラウドでいい仕事、ローカルにすべき仕事、任せない仕事の7業務の振り分け表を、日常でパッと見られるレベルまで薄めた1枚、という位置づけになります。
たたき台がこちら。
| 状況 | 使うツール |
|---|---|
| 公開情報・匿名化済みの下書き・調べ物 | クラウドAI(個人向けプランでOK) |
| 社名や大まかな数字が入る社内文書 | クラウドAI(会社契約の法人向けプランを使う) |
| 顧客情報・契約書原本・給与など機密性が高い情報 | ローカルLLM |
| 上記のどれか迷う場合 | ルール①の判断者に相談してから使う |
| 昇給額・解雇・契約締結の可否などの「最終決定」そのもの | クラウドでもローカルでもなく、人が決める |
最後の行だけ、性質が違います。この早見表は「どちらのツールに情報を入れるか」の基準であって、「AIに最終判断をさせていいか」は別の基準だからです。昇給額や解雇の可否のような決定は、ローカルLLMに入れれば済む話ではありません。3分類の考え方はクラウドでいい仕事、ローカルにすべき仕事、任せない仕事のとおりです。あわせて、判断・相談が絡む業務は、社内文書らしく見えても「迷う場合」の行を優先すると安全です。
なお2行目で法人向けプランと書いたのにも理由が。同じ「クラウドAI」でも、個人向けと法人向けでは情報の扱いが変わるからです。
ChatGPTは個人向けの設定で学習利用をオフにできる、とOpenAIが説明しています。Geminiの個人向けアプリについては、入力の一部を人間のレビュアーが確認することがあるとGoogleが明記。Claudeは個人向けでも既定でオフだと、Anthropicが説明しています(いずれも2026年9月12日確認・出典は記事末尾)。法人向けプランなら、3社とも既定で学習に使われません。
社外秘レベルの情報が混じる業務では、個人向けの安いプランを使い回さず、法人向けプランへ切り替えてください。
この早見表は、作って終わりではありません。次のルール③(ログ)の内容をもとに、月1回ほど見直していきます。ローカルLLMの仕組みそのものが気になる方は、ローカルLLM入門もあわせてどうぞ。
ルール③「使ったログ」を残す——併用ならではの記録の仕方
ローカルLLMは本当に安全?仕組みと注意点を解説では、ローカルLLM単体の安全対策として「利用ログの記録」を挙げました。ただしあれは、ローカル側だけの話にとどまっていたんですよね。
併用時代に必要なのは、その情報をクラウドとローカルのどちらに入れたかが、後から分かる記録です。専用ソフトは要りません。共有スプレッドシート1枚で十分です。
記録する項目はシンプルに4つ。日付、担当者、使ったツール(クラウドかローカルか)、業務の種類(議事録・見積書・契約書チェックなど、ざっくりで構いません)です。
記録の粒度は、機密性が高い情報を扱ったときだけ必ず記録すれば十分でしょう。日常的な軽い調べ物まで毎回記録していると、「全部記録しないと」という完璧主義で、かえってルール自体が形骸化してしまいます。
ログを取る目的は2つ。ひとつは、万一トラブルが起きたときに、どちらのツールに何を入れたかをすぐ確認できること。もうひとつは、月1回ログを見返すことで、早見表(ルール②)の精度を上げていけることです。
3つのルールを1枚にまとめる——そのまま使えるひな形
ここまでの3つを、コピーしてそのまま使える1枚のテンプレートにまとめました。

【クラウドAI×ローカルLLM 併用ルール(追加シート)】
※このシートは、既存の生成AI利用ルール(入力NGリスト等)に「併用する場合」だけ追加する分です。
■ ルール1:振り分けの最終判断者
・判断者:〇〇(役職・氏名) 代理:〇〇(役職・氏名)
・迷ったら:現場では決めず、まず判断者に相談する(返信目安:当日中)
・判断者・代理のどちらも捕まらない場合:判断が出るまで、その作業はいったん止める
■ ルール2:振り分け早見表
・公開情報・匿名化済みの下書きや調べ物 → クラウドAI(個人向けプランでOK)
・社名や大まかな数字が入る社内文書 → クラウドAI(会社契約の法人向けプラン)
・顧客情報・契約書原本・給与など機密性が高い情報 → ローカルLLM
・どれか迷う場合 → ルール1の判断者に相談してから使う
※判断・相談が絡む業務は、社内文書に見えても「どれか迷う場合」を優先する
※昇給額・解雇の可否・契約締結の可否などの「最終決定」そのものは、
クラウドでもローカルでもなく、人が決める(AIの出力はたたき台まで)
■ ルール3:使ったログの残し方
・記録する場所:共有スプレッドシート1枚(専用ソフトは不要)
・記録する項目:日付/担当者/使ったツール(クラウド or ローカル)/業務の種類
・記録する頻度:機密性が高い情報を扱ったときは必ず。軽い調べ物はまとめてでも可
・見直すタイミング:月1回、判断者がログを見て振り分け早見表を更新する
このひな形は、生成AIの社内ルールの作り方のA4一枚5項目を作り直すものではありません。併用を始めた会社だけが重ねて使う、追加の別紙という位置づけです。空欄(〇〇)は自社の役職・氏名を書き込むだけで、そのまま配布できる形になっています。
まとめ:3つの空欄を埋めるところから始める
要点を整理します。
- 判断者を1人決め、迷ったときの上げ方と代役まで決める
- NGリストとは別に、「どちらに入れるか」の早見表を1枚作る
- クラウドかローカルかを記録するログを、スプレッドシート1枚から始める
今日、この3つの空欄——判断者・早見表・ログの置き場所——を1つずつ埋めてみてください。全部を一度に完璧にする必要はありません。
シリーズを振り返ると、クラウドAIとローカルLLM、使い分けの2つの基準で線引きの考え方を、クラウドでいい仕事、ローカルにすべき仕事、任せない仕事で業務への当てはめ方を、この記事で運用の回し方を扱いました。線を引く、当てはめる、回す。この3本で一通りの流れがそろったことになります。
3つの空欄を埋めようとして、判断者を誰にすべきか迷う方、早見表の線引きに自信が持てない方。一緒に設計するのが私の仕事です。併用ルールは1社ごとに正解が違うので、社内研修やセミナー形式で、その場で早見表を作るところまで対応しています。
私はIT業務歴約30年、インフラ構築からAI活用まで一人でこなしてきた人間。神奈川・東京・山梨を中心に対応しています。気になる方は、お問い合わせページからお気軽にどうぞ。
参考資料
- OpenAI「Data Controls FAQ」(2026年9月12日確認)
- OpenAI「エンタープライズプライバシー」(2026年1月8日更新・2026年9月12日確認)
- Google「Geminiアプリのプライバシー ハブ」(2026年8月10日更新・2026年9月12日確認)
- Google「Google Workspaceの生成AIに関するプライバシー ハブ」(2026年8月14日更新・2026年9月12日確認)
- Anthropic Privacy Center「Is my data used for model training?(個人向け)」(2026年3月17日更新・2026年9月12日確認)
- Anthropic Privacy Center「Is my data used for model training?(商用向け)」(2026年9月12日確認)


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