はじめに
気づいたら社員がChatGPTで文章を作っていた——そんな会社が増えています。顧客情報や社内資料をそのまま入力していないか、不安になった経営者・総務担当者も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、禁止しても隠れて使われるだけです(「シャドーAI」と呼ばれる状態です)。必要なのは「入れてはいけない情報」と「使い方」を決めた、シンプルなルールです。
この記事では、情報漏洩が起きる仕組みと、そのまま配れる入力NGリスト、A4一枚の社内ルール5項目を、IT担当者がいない中小企業向けに解説します。
生成AIで情報漏洩が起きる仕組み——何がどう危ないのか
「生成AIは危ない」と漠然と感じている方は多いですが、リスクの正体は主に3つに整理できます。順に見ていきましょう。
リスク1:入力内容がAIの学習に使われる可能性
ChatGPTなどの無料版・個人向けプランには、入力した内容をAIの学習に使う設定が既定でオンになっている場合があります。学習に使われるとは、AIが入力内容を「参考素材」として取り込み、別の誰かへの回答に(形を変えて)反映される可能性がある、という意味です。
自社の見積金額や顧客名を入力してしまうと、その情報が二度と手元の管理下に戻せなくなる、という点が最大のリスクです。
リスク2:アカウント乗っ取り・履歴閲覧
生成AIのチャット履歴には、これまで入力した内容がそのまま記録として残っています。アカウントが乗っ取られたり、共用PCに履歴が残ったままだったりすると、過去の入力内容がまとめて見られてしまいます。
パスワードの使い回しや、退職者アカウントの放置も同じ理由で危険です。
リスク3:出力側にも注意——誤情報・著作権の問題
生成AIは、もっともらしい嘘(誤情報)を出すことがあります。また、出力文章が既存の著作物と似てしまうリスクも指摘されています。ただし本記事の主題は「入力側」、つまり情報を入れる側のリスクです。出力の扱い方は後述するルールの中で触れます。
無料版と法人プランの違いを整理する
ここが最も重要な分かれ目です。表で整理します。
| 区分 | 学習利用の既定設定 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 無料版・個人向け(Free/Plus/Pro等) | 学習に使われる設定がオンの場合がある(設定でオプトアウト可能) | 個人利用、お試し利用 |
| 法人向けプラン(Business/Enterprise等) | 契約上、入出力データを学習に使わないと明記されているのが一般的 | 会社としての本格利用 |
つまり「無料版に会社の情報を入れない」が第一原則です。法人プランは個人向け設定の「オプトアウト(入力内容を学習に使わないよう設定を切ること)」に頼らず、契約そのものでデータを守る仕組みになっている点が安心材料になります。
公的機関も「AIのリスク」を重要課題と位置づけている
IPA(情報処理推進機構)が発表する「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位に初めて選出されました(出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」)。ランサム攻撃、サプライチェーン攻撃に次ぐ順位です。
「なんとなく怖い」という感覚的な話ではなく、公的にも重要なリスクとして認知された領域だということです。だからこそ、感覚ではなくルールで対処する価値があります。

「入力してはいけない情報」リスト——このまま社内に配れます
漏洩の仕組みが分かったところで、実務に落とし込みます。以下は、そのまま社内に配れる「入力NGリスト」です。
- 顧客・取引先の実名、連絡先、契約条件
- マイナンバー、給与、人事評価などの従業員情報
- 未公開の財務情報、見積原価
- 設計図面、レシピ、ソースコードなどの技術情報
- パスワード、APIキー、社内システムのURL
覚えることは1つだけで十分です。「迷ったら入力しない。固有名詞は伏せ字にしてから使う」——これを合言葉にしてください。
伏せ字にすれば十分使える、という逃げ道
「じゃあAIを使えないじゃないか」と思われるかもしれませんが、実は固有名詞を置き換えるだけで多くの作業には十分使えます。
例えば「A社向け見積のお詫びメールを書きたい」という依頼であれば、実際の社名や金額を入れず「A社」「〇〇円」のように伏せ字にしたまま文章の下書きを作ってもらう、という使い方ができます。文面の型やトーンはAIに任せ、固有情報は自分で後から差し込む——この役割分担さえ守れば、禁止せずに活用できます。
A4一枚でつくる社内ルール——最低限の5項目
立派な規程書は不要です。以下の5項目をA4一枚にまとめて配布・掲示すれば、中小企業のルールとしては十分に機能します。
1. 使ってよいツールと契約プラン
会社として契約しているツールを明記します。例えば「会社契約の〇〇のみ利用可。個人アカウントは業務に使わない」といった一文で構いません。
2. 入力してはいけない情報
前セクションのNGリストをそのまま引用、または自社の言葉に書き換えて掲載します。
3. 出力の扱い
AIが出した文章や数字を、そのまま社外に出さないというルールです。事実確認と手直しをしてから使う、という一文を必ず入れてください。
4. 禁止する用途
例えば「人事評価の判断をAIに丸投げしない」「最終的な意思決定はAIに任せない」といった用途面の線引きです。AIはあくまで下書き・補助役に留める、という考え方を明文化します。
5. 困ったとき・間違えて入力したときの相談先
うっかり機密情報を入力してしまった場合の相談窓口を1人決めておきます。ここで大切なのは「叱らず、すぐ報告できる雰囲気」を作ることです。報告が遅れるほど対応が難しくなります。
そのまま使えるひな形
【生成AI利用ルール(社内配布用)】
1. 使ってよいツール:会社契約の〇〇のみ。個人アカウントは業務利用禁止。
2. 入力してはいけない情報:顧客情報/従業員の個人情報/未公開の財務情報/
技術情報(図面・ソースコード等)/パスワード・APIキー
→ 迷ったら入力しない。固有名詞は伏せ字にして使う。
3. 出力の扱い:AIの出力はそのまま社外に出さない。必ず事実確認と手直しをする。
4. 禁止する用途:人事評価・最終的な意思決定をAIに任せない。
5. 相談先:間違えて入力した場合は〇〇(担当者名)へすぐ報告。叱りません。
ルールを守ってもらうコツ
- 禁止一辺倒にしない:便利さを認めた上で線を引くと、ルールは守られやすくなります
- 導入時に15分だけ全員で読み合わせる:配るだけでは読まれません
- 年1回は見直す:ツールも使い方も変わっていくため、固定したままにしない
機密データでもAIを使いたいなら——ローカルLLMという選択肢
「結局、大事な情報にはAIを使えないのか」と感じた方もいるかもしれません。そのための出口が「ローカルLLM」です。
ローカルLLMとは、自社のPCやサーバーの中でAIを動かす方法のことです。データがそもそも社外に送信されないため、入力NGリストの多くが「社内なら可」に変わります。
詳しい仕組みや始め方は、以下の記事で解説しています。
- ローカルLLM入門|社外に出せないデータもAIで活用——仕組みと基本の考え方
- LM Studioのインストール方法|画面つきで手順を解説——無料で試す手順
- LM Studio実務活用|要約・下書き・Q&Aプロンプト例を公開——実務での使い方
- 中小企業のローカルLLMは元が取れる?コストの本当の話——費用対効果の考え方
ただし、誇大な表現は避けたいところです。ローカルLLMは「絶対安全」ではなく、外部への送信という経路そのものを構造的になくせる、という位置づけです。日常的な文章作成程度であれば、クラウドの法人プランで十分足りる会社も多く、どちらが正解というものではありません。自社の情報の扱い方に応じて選ぶのが現実的です。
まとめ
- 生成AIは、放置しても禁止しても情報漏洩のリスクが残ります
- 「無料版に会社の情報を入れない」が第一原則です
- 入力NGリストとA4一枚のルールがあれば、今日から運用を始められます
- 機密情報を扱いたい場合は、ローカルLLMという選択肢もあります
まずは本記事のNGリストを自社の言葉に書き換えて、朝礼やチャットで共有してみてください。それだけで、社員の使い方は大きく変わります。
自社に合わせたルール作りや、社員向けの研修が必要な場合はお気軽にご相談ください。商工会議所や社内勉強会でのセミナー形式にも対応しており、神奈川・東京・山梨を中心に、機材選定からローカルLLMの構築・使い方のレクチャーまで一貫してお手伝いしています。



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